出会い

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豫園を見終わり、南京東路へ行こうとしていた。
豫園では歩き疲れたので、タクシーで行こうと思った。タクシーに乗っても運転手と話はできないので、目的地を指し示すために、ガイドブックを手にとって地図のページを開いて待ち構えていた。

すると、英語で話しかけて来る人がいる。タケシ映画によく出てくる寺島進をゴツクして、真っ黒に日焼けさせたような人。僕より、少し年上だろうか。

「ここは○○路で、豫園は、あっちだよ」と。
「知ってる。行ってきたところ。これから、人民公園に行こうとしているところ」と答えた。すると、
「人民公園なら、あっちだよ」と、畳みかけてくる。
「知ってる。だから、タクシーを拾おうと思って」できるだけぶっきらぼうに言い返した。
「人民公園に行くんなら、タクシーなんか使わなくてもいいよ。歩いて10分だよ。こっちだよ。一緒に行こう」と、テクテクと歩きだす。

しょうがなく、僕も一緒に歩きだす。

すると、人懐こくいろいろと話しかけてくる。
「いやー、今日は暑いねー。どこから来た? 日本? おれは天津だよ。天津は、まだセーターとジャケットが必要で。セーターは脱いだけど、ジャケットは着てるから、なお暑いよ」
「なんで、英語がそんなに上手なの?」
「おれは、天津の高校を出た後、船員学校に行って、船乗りとして世界中を回ってるからね」
なるほど、だからゴツクて真っ黒なのか。
「2日前に上海に来て、今日は、仕事が終わったところで、妻へのお土産を探してたところなんだよ。あんたは?」
「いやー、僕も同じく2日前に上海に来て、仕事が終わって、お土産を探していたとこです」
「おれは、お茶を買おうと思っててさぁ……中国人ってのは、たくさん食うけど、太ってる人って少ないだろ。それは、お茶のせいなんだよ。おれの妻は、太ってるからさぁ、お茶を買おうと思ってる」

だんだんと雲行きが怪しくなってくる。
観光客に親切にして、知り合いのお店に連れ込み、お土産を買わせる手合いか?

怪訝な思いを胸に秘めつつも、会話は続く。

彼からは日本に行った話も出てくる。浅草に行ったら、飲み屋で寅さんの格好をした人を見かけたこと。歌舞伎町に行ったら、派手な新聞配達を見かけたこと。

僕は自分が映像業界の末端にいることを話すと、彼が子供の頃見た日本映画の話がいろいろと出てくる。山口百恵や高倉健。
「最近の若いのとか、主婦は、韓国ドラマ・映画が好きだけど、俺は嫌いだ。浅はかで、ワンパターンだから。おれの世代は、日本映画が好きだ。ケンサンの最新作は良かった。リアルで、人間の本性に訴えかけるよ。おれはびっくりした。あのケンサンが泣くんだよ。自分の感情を抑えられなくて……」

日本ヨイショの後は、お国自慢。
「今、中国は世界で6番目の経済大国になってる。あと20年もすれば世界一になるよ。20年前、上海に来たときは、完璧に何もなかったからね」
「20年じゃないでしょう……19年じゃないの?」
とヨイショのお返しをすると、大笑い。

そうこうしていると、人民広場に到着。
「どうすんの?」
「そうですね……ぶらぶらしながら、外灘の方へ行こうかと思います」
「じゃあ、途中まで一緒に行こうか」

途中のデパートというか、大きな土産物屋に入った。買い物をする人たちでとても賑わっている。
「スリが一杯いるから、鞄を体の前の方にして」
と忠告してくれる。
お酒やお茶のショーウィンドウをあれこれと見る。
「値段を見るだけだよ。豫園はここの3倍の値段だっただろ」

一周してすぐに出る。
脇道に入って、今度はお茶の専門店に入る。
「そんなに安くないなぁ……もう一軒行こう」
とさらに脇道へ行こうとする。

僕もとうとう我慢できなくなって、
「えーと、そろそろ、僕はこのあたりで失礼するわ。南京東路の方にもどる」
と、言った。すると、彼は慌てて
「待て待て、あなたは、私を誤解している。私は出会った記念にあなたにも小さなプレゼントがしたいだけだ。これは中国の習慣だ。あと1軒だけつきあってくれ」

必死の形相なので、僕も折れて、しょうがなくついていく。まぁ確かに、もの売りにしては話ができすぎている。

ほどなく一軒のお茶の専門店に到着。
まじめそうな若い夫婦が二人で切り盛りしている小さなお店。サービスでお茶が一杯出てきた。

彼は、店主とやりとりをする。
「龍井茶の獅峰の新茶があるって? 見せてみろ」
小さなビニール袋を小抱えにして店主がやってくる。
彼は、袋に顔を埋めて匂いを嗅いだり、1・2枚指先に取って折って見せる。
「これは本当に新茶だ。新茶だからほらパリパリと折れるだろ。去年のものだと、しんなりしちゃうんだ」
彼はそれを袋に詰めさせる。2つ袋を作らせ、そのうちの一つを自分の鞄に入れ、もう一つを僕に持たせる。

「いや、受け取れない」
「受け取ってくれ。これは、中国の習慣だ」
「何と言っていいか……」
「じゃあ、代わりにタバコでも買ってくれ」
「そうさせてもらいます」

折しも、そのお茶のお店の隣には、おばあちゃんが一人で店番をしているようなお店があった。
そこで、タバコを1カートン購入。800元(約12000〜13000円)。
(正直、ちょっと高いかな……と思ってしまったけれど)手持ちの現金をほとんど吐き出した。

なんだか、複雑な思いで南京東路に戻る。
「じゃ、ここで、失礼する。外灘はこの先、5分」

一応、握手はしたけれど、別れはあっけなかった。
手元にはお茶の袋。

ふと思い返せば、彼の名前も聞いてなかった。連絡先も知らない。
親切にしてもらったにも関わらずずっと半信半疑でいたり、高級なお茶をもらったにも関わらずお返しのタバコを高額と思ってしまったり……俺ってサイテーだなぁ。
もう取り返しがつかないことに、後悔、後悔、後悔……。

帰宅してから、ネットで龍井茶を検索。
龍井茶は、中国茶の中で最高級。
獅峰は、龍井茶の中で最高級。
今の時期にとれるものは、龍井茶の中でも最高級。

楽天で見ると、高いものでは、50gで7500円の値段がついてる。安くても40gで1200円だ。手元にあるのは500gもある。というか、そもそも、出品がすごく少ない。
昨日の夜から、何度かお茶・コーヒーを飲む機会はあるのだけれど、まだこの龍井茶の袋は開封できずにいる。

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コメント(4)

yuyang :

どうしても構えてしまうときってありますよね。
疑うことに罪悪感を抱いたり、疑わないことに大丈夫か?って。

タバコ1カートンそんなにするんですか。

washi :

確かに……>タバコの値段
僕は、タバコを吸わないので、適正価格はわかりません。
タバコ屋のおばあさんに値段を吹っ掛けられていたのかもしれません。
だとしたら、おばあさんの値切らずに言い値で買った僕は間抜けです。
でもなぁ……お返しの品を値切るというのは、あの場の私の心情としては難しいです。
とはいえ、中国タバコの最高級品「熊猫」は一箱300元とのこと。
たしか、買ったのは「中華」というブランドだったような気がするのですが、それだと、7〜80元とのこと。お祝いの席など特別なときに吸うもののようです。

柴犬 :

こういうときは難しいね。ソウルと台北で似たような経験がありますが、一種の芸の鑑賞代として割り切りました。というかそれしかなかった。

washi :

どうもです>柴犬さん
私もようやっと落ち着いてきました。
まぁ、善意の循環を心がける……ということで。

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このページは、washiが2006年5月 1日 17:20に書いたブログ記事です。

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